kisskisskiss 2010 感想

家城さん演出・脚本に惹かれて行って来ました。チケット譲ってくださったid:NOEさんありがとうございます!
家城さん関係のレポは書き出すと長くなってしまって結局没にするのがいつもだったんですが(単独とか)今回は書く!長くてすいません!

あらすじ

30歳独身彼氏なしで恋愛に縁遠い生活を送っているOL太子(ふとこ・平田敦子)。会社では若いOL三人組(白子・おタカ・たけ美…全員女装)に馬鹿にされ、ひそかに恋心を抱いている上司にもまったく相手にされない。ある日ピンクの招き猫を磨いていると、恋愛の神様が降りてきて、太子に「好きになった相手が必ず自分と恋に落ちる」という不思議な魔法の力を与えてくれる。この力を手に入れた太子はいろいろな男性と恋愛をしていく。

上司 福田(チーモンチョーチュウ 菊地)

最初の相手は上司。以前は全く相手にされなかった上司と一瞬にしてラブラブな関係になれた太子。部屋でDVDを見てはいちゃつき、砂を吐くような甘い甘いトーク。今まで経験の無かった状況に幸せいっぱいで夢見心地の太子。
しかしある日放置されている彼の携帯電話を発見し、逡巡しながらもつい覗いてしまう。彼と白子との浮気メールを発見してしまいショックを受ける太子。「もう彼と会わないで!」彼の携帯から衝動的に浮気相手に電話をかけて言い放つ。その後福田と言い争いに。福田は本命は太子だと弁明するも、「俺も被害者、白子からグイグイ来られただけ、あいつは会社に男探しに来ているようなものだ、そもそも高音で何言ってるかわからないし…」と浮気相手の悪口言いまくり。
太子「これあなたのこと以上嫌いになりたくない、今日は帰って…」しかし太子の心が冷めると同時にあっさり我に返る福田。
福田「この数週間なにやってたんだ俺…一体どんな手を使ったんだ?付き合ってたことは誰にも言うなよ。笑われるからな。」手のひらを返し冷たい態度でそそくさと去る男。
あくまでも魔法で得た愛はまやかしのもので、魔法が解けてしまうと恋愛中の愛情は何も残らない。残酷です。
菊地さん、『身勝手な男』感がバリバリ出てて良かったですね。魔法で太子が好きでたまらなくなってるはずなのにチャッカリ別の女と浮気。いくら魔法に支配されていてもその人の基本的な性格や思想は変わらない、というのが示されてました。
太子も、最初は自分の好きな相手と一緒にいられるだけでいい、と思っていたのが実際に実現されるとやっぱり浮気は嫌だ、相手を独占したい、と求めるものが大きくなってきていることが暗示されます。(ガモンでより明確に。)

ロックスター アキラ(ブレーメン 関根)

今までなら縁のない存在のロックスターとも簡単に恋愛関係に。「自分で自分の人生の限界を作って諦めてた。でも辛かった。努力もせずに望んでた。圧倒的なエネルギーで私の殻を破って膿を出してくれる、アキラみたいな人を私はずっと待ってたのかもしれない」とストレートでロックなアキラの主張に救われる思いの太子。
だが、アキラはクスリの常習者だった。そんなアキラに驚き、必死で止める太子
「悪いことでしょ?捕まったら音楽もできなくなっちゃうのよ。」「俺がしたいかしたくないかだ。迷惑なんて関係ない。音楽なんてどこでもできる」
「おかしなことして迷惑かけるわ。」「ジャンキーなんかと一緒にするな。」「お前は俺の人間性にほれたのか?違うだろ。俺の音楽にほれたんだろ。だったら口出しするな」「死んじゃうかもしれないのよ?」「死んだら死んだでいいんだよ。俺が死んだら愛も死ぬのか?俺はお前がジャンキーになろうが殺人鬼になろうが愛し続ける。それが俺のロックだ。」
クスリと言えば家城さんブログ炎上→閉鎖のきっかけになった問題ですが…。このアキラの主張が、家城さんなりの答えだったのかな。
法律で禁止されてはいるけど一概に善悪でくくれるものではなく、さまざまなマイナス要素はあるけれども、ロック(や芸術やクリエイティブな事象)のためには必要悪と言える部分もあり、ダメなんだけど絶対ダメ、とは言い切れない…というような複雑な気持ちが透けて見えるかなと。だってアキラの言葉、荒唐無稽だし同意はできないけど、変に妙な説得力があるんですもん。
ついに「話にならない。少なくとも私の中のあなたは死んだわ…」と太子の気持ちが離れる。それと同時に「俺の中のお前も死んだよ」と去るアキラ。
アキラについては結構頑張って説得してて、冷めるの我慢してたと思うよ太子!私だったら周りの迷惑顧みず大音量で音楽流す時点でアウトだw


アキラが去った後、太子と神様との会話で、太子が相手に冷めた瞬間に、相手にかかった魔法が解けるというルールが明らかに。
「私が嫌いにならなければいいんだ。次こそは失敗しないで幸せになる…」と決意する太子。

アイドルスター ガモン(ジャングルポケット 斉藤)

次の相手はアイドル俳優のガモン。鷹揚で芝居がかった雰囲気が役に良くあっています。ただ、キスした時とか自分の台詞や演技に照れがあるのかたまに素になって自分で笑ってしまっているw 役に入り込めー!w(この点菊地さんはうまかったと思う。)
ガモンとの破局はいちばんあっけない。ふたりでミュージカルで愛を歌い上げて盛り上がるふたり。「君は僕のものだ!」「じゃああなたも私のもの?」「ハハハ違うよ僕はみんなのものに決まってる」で覚めてしまう。
アイドルだったらそんなものじゃないかなぁと思うんだけど、太子は納得することができなかった。


ここでわかるのは、あきらめて物わかりのいい女のフリはしているけど実際にはあきらめられない太子は、自分の身の丈にあった恋愛をするべきで、背伸びした相手との物分りのいい恋愛は彼女にはできないということ。好きになった相手には自分のことだけを好きでいて欲しいと思う。つい欲張ってしまう。このへん太子は、普通の、あたりまえの等身大の可愛い女の子です。

福田と白子

上司の命令で会社の金を横領し、拘留されてしまった福田。白子は太子に語る「福田さんに他の女の人がいるのは知ってました。辛かった。でも別れるのはもっと辛いから気づかないフリをしてたの」太子「そんなのひどいよ…嫌にならないの?」白子「なんども嫌になったけど、それ以上に好きなの」福田の独白「白子が俺の浮気に気づいてるの、俺気づいてたよ。こんなことになって毎日面会に来てくれたのは白子だけだった。白子、ごめんな。ありがとう」白子「ごめんねより、ありがとうの方が嬉しかった」以前は単なる浮気相手だった福田が白子の愛と執念にほだされた!偽りの愛からスタートして勝ち取ったパターン。

小説家 コウ(カナリヤ安達)

どこで好きになったのか、全く接点のなさそうな男前の小説家コウ。着流し姿のコウと、部屋でふたりでDVDを見ている。福田さんの時はDVDそっちのけでキスしまくってたけどコウはそんなことをしない。「キスしたくならないの?」「映画を見ている時にそんなことをしたら作者にとって重要なシーンを見逃してしまうかもしれないじゃないか…」小説家という職業柄、なにかと理屈っぽいコウw
コウが構想中の小説の内容は、加害者と被害者が逆転するというもの。加害者の偶然のミスで被害者が失明してしまったとしたら…?加害者はその後の人生で自分を責める。被害者は光を失うが立ち直って別のものを得る。被害者と加害者の逆転現象。「君と出会ったからこの小説が生まれたんだよ」
何かを失うことによって何かを得る、という体験をさせるために太子に目隠しをさせるコウ。「やめて。怖い」「君はさっそく恐怖という感情を手に入れたね。感覚が鋭敏になって空気の流れや温度に敏感になる…」目の見えない太子に近づきキスをする安達さん。過剰に隠微でエロな雰囲気w「この人なら大丈夫。嫌いになる要素がないわ」
しかしひとりで部屋にいるときテレビを見てふとつぶやく太子「この人かっこいいー」直後、携帯電話にコウからの別れの電話が。ずっと変わらずに誰かを好きでい続けることは難しい。(いくらなんでも厳しい条件だー!と思った)


コウの「奪われたことによって得られるもの」は何を暗示しているんでしょうね。太子は魔法の力を手に入れることによって、自分の手で相手との愛を育てる機会を奪われた。忍耐することによって得られる愛もある、というのは福田と白子のカップルが証明しています。相手との関係をいい状態で維持し続けるには、お互いの努力と忍耐と歩み寄りが不可欠。太子は3人の男との別れからそれを学んだ、ということなんでしょうか…。

太子と小林(ブレーメン岡部

結局太子や福田、白子たちが勤めていた会社は倒産。(横領事件の影響?)魔法の力があっても結局は恋愛が成就せず、雨の中で招き猫を抱きしめ、ひとり泣く太子。そこに冴えない同僚小林があらわれる。「最初は人を好きになるのが怖かった。そのうち嫌いになるのが怖くて、今はまた好きになるのが怖い」と泣く太子に小林は「太子は俺が幸せにしちゃうから、安心しちゃっていいよ」とあっさり告白する。
小林「びっくりしたろう。俺、隠すの上手いからな!」
太子「なに馬鹿なこと言ってるの!?私の魔法の力は私が好きになった相手にしかきかないのよ??私はあんたのことなんか好きじゃない。」
小林「それが答えか…まぁゆっくり待ってみるとするかな」
太子「あんた、私のこと好きになったって言うの?」
小林「好きになったんじゃないよ、ずっと好きだったの!」
なんと魔法の力の影響ではなく、そのままの太子が好きだった小林。事態を理解すると太子は小林のことを好きになる。
太子「どうしてだろう、心臓が動くのと同じくらい簡単にあなたのことが好きになっていく!」
小林「あれ、この流れ、つきあっちゃう感じ?」←(笑)
抱き合う太子と小林。しかし静電気体質の小林と接触したとたん静電気が発生し、驚いた太子は抱えていた招き猫を落としてしまう。
小林「あ!ごめん招き猫!」
太子「いままでありがとう、招き猫さん」
魔法が解けても、小林の態度は変わらない。オチもうまくできていました。


結局「好きになった相手が自分を好きになる」という魔法の力を逆に小林から使われたような形になった太子。
この力はもともとみんなが持っているものなのかもしれませんね。

感想

多少とっちらかってはいたけど、見所の多い、考えることの多い劇でした。さすが家城さん。Blogでも思い入れのある作品だと語ってらっしゃいましたが、再演されたらまたさらに一味違う面白いものになるんだろうなーという感じ。
主演女優の平田さんは素晴らしかったです。罵倒されつつ、口説かれつつ、ひっきりなしにみんなからキスされまくるという肉体的にも精神的にも消耗する役です。こんな脚本書くなんて家城さんSだなーと思いましたが見事に演じてました。平田さん以外全員男、女役も女装。その女装OLから「30歳で彼氏もいないのによくがんばってますよねー。私だったら恥ずかしくて会社これない!」とかなじられるのってすごいシュール。(アラサー独女は全然珍しくないのでアラフォーの方がよりリアルだったかもとか。)
菊地さんは普通に演技うまかったですね。ダンスは正直笑ったほうがいいのかカッコいー!と見た方がいいのかわからずwでも上手でした。
ジャンポケ斉藤さんは逆に演技イマイチというか素のままで演技してないんじゃw と思った。けどダンスはキレがあって見栄えしてたかな。平井さんの手のひらでコロコロ転がされてフォローしてもらってる感じがしましたw 面白かったけど。
ブレーメン関根さんもセリフが割と棒っぽかったw でも役どころとしてはかなり重要な役でした。家城さんの代弁者というか。セリフかっこいいんだわ。
安達さんはエロス!演技も上手いです。ねっとり太子を責めるさまは、見てはいけないものを見たような気分になりました。
んでブレーメン岡部さんですが、すごい良かったw 冴えなくて寝癖のついたくたびれたサラリーマン、そっけないふりしてるけど実は優しいみたいな超ストライクな役。セリフまわしも好きだw 小林の告白シーンすごい好き。印象的。この劇の岡部さんのおかげでブレーメンの株がストップ高を記録しました。(あんまり詳しくないけどw)


次のカリカは月末のタカトシロンブー亮さんとの「とりあえずジントニック」です。楽しみ!